• 2022年5月24日
  • 上級者向け
  • コース:扇沢→(徒歩4時間20分)→針ノ木峠→(徒歩1時間)→針ノ木岳→(徒歩45分)→スバリ岳→(徒歩1時間40分)→赤沢岳→(徒歩2時間)→岩小屋沢岳→(徒歩1時間30分)→種池山荘→(徒歩40分)→爺ヶ岳(南峰)→(徒歩4時間)→扇沢
  • 扇沢標高:1,423m
  • 針ノ木岳標高:2,820m
  • 獲得標高:2,820m – 1,423m = 1,397m
  • 登頂時間:5時間00分
  • 縦走時間:5時間30分
  • 下山時間:9時間00分

アクセス方法

信濃大町駅から路線バスで扇沢まで行けます。バスが運行しているのは春(4月)〜秋(11月)にかけてです。時刻表は変わる可能性がありますので、詳しくは毎年発表される時刻表を見ましょう。

信濃大町〜扇沢路線バス:https://www.alpico.co.jp/traffic/local/hakuba/ogizawa/

扇沢には広い駐車場もありますので、車で行く方も多いです。扇沢バスターミナル前は有料駐車場、少し手前に無料駐車場もありますので、合わせて利用しましょう。

扇沢から針ノ木岳まで

最初の10分ほどは遊歩道を歩きます。一般道のすぐ隣を歩くので迷うことはありません。

その後登山口から入山するわけですが、積雪箇所がちらほら出てきます。雪が積もるとコースが見えなくなるので、何回かコースに迷いました。ただ、コースから大きく外れることはなく、近くを探していたらすぐ見つかりました。一時間ほど歩いて大沢小屋に到着です。

大沢小屋は、この日はまだ営業していませんでした。雪が積もっているせいかは不明ですが、小屋前にベンチもありませんでした。仕方なく近くに適当に座り、朝食を取りました。

小屋を過ぎたら針ノ木大雪渓に突入します。5月なのに、真冬並みに雪が積もっています。と言いながら、表面がいい具合に溶け始めているので、歩きやすかったです。雪渓を登るに連れてだんだん傾斜がきつくなり、しんどさが増してきます。針ノ木峠の直下まで登ると、本当に傾斜がきつく登るのが大変です。

針ノ木峠に登りきるまで針ノ木小屋は見えませんでした。峠に登ってから、小屋は積雪に隠れていることが分かりました。そして、峠に登った瞬間、反対側の山々の全貌が見えてきました。高瀬ダム越しに繰り広がる北アルプスはまだまだ雪化粧です。一番目立っているのはやはり尖っている槍ヶ岳ですね。

針ノ木峠から針ノ木岳までは、積雪をトラバースする箇所が多いので、滑り落ちないように気をつけて通りました。1時間ほどで山頂に登れます。

針ノ木岳から種池山荘まで

針ノ木岳に登ると、隠れていた黒部ダムが姿を表します。一度近くで見てみたいダムですね。そして、ダムの向こう側に立っている立山と剣岳がまたかっこよかったです。こちらまた一度登ってみたい山ですね。

針ノ木岳・スバリ岳・赤沢岳・鳴沢岳までの稜線上は積雪が残っている箇所もありますが、どちらかといえば夏山に近い印象でした。多少登山経験を持っている方なら、鳴沢岳まで縦走できるでしょう。

しかし、鳴沢岳から乗越山荘・岩小屋沢岳・種池山荘までは積雪が多かったです。特に種池山荘に近づくにつれて積雪が明らかに増えています。同じ稜線なのに、こんなに違うんだと驚きました。この区間は登山経験の少ない方が通るには時期的に早い感じがしました。

種池山荘から渓谷で遭難するまで

しかし、ここからが事故の始まりでした。

種池山荘から柏原新道を探しながら下っていましたが、なかなか登山道がみつかりません。ただ、コース云々は置いといて、雪の傾斜面をすごい勢いで下るのが楽しすぎてひたすら下っていきます。途中で地図を見ては、柏原新道はあの辺だろうと勝手に予想してはその方向に向かって進んだりしていました。でもね、雪山の下山は速いですね。あっという間に川が流れる渓谷にたどり着きました。川といっても、上流は雪渓ですね。

雪渓に着いてから、そろそろ登山道に合流しないとまずいと感じました。この時はまだ16時。最初は渓谷の斜面を登っていって、登山道に合流したら良いじゃんと軽く思っていました。実際斜面を眺めてみても登れそうだったからです。しかしいざ登ってみると、足場がまったくなく、手で引っ張れるちゃんとしたものもなく、大変大変。というか、無理でした。2回試しましたが、2回とも渓谷の斜面から滑落してしまいました・・・

今度は、渓谷の斜面を諦めて雪渓に沿って下っていったらどうだろうと思いました。そして、しばらく下ってみたのですが、雪渓が溶けて分断されている箇所もあり、このまま雪渓に沿っていっても下れないことが分かりました。

渓谷から登り登山道探し

ここまで来たら、残された選択肢は一つ。雪渓を遡っていって登山道と合流することです。雪渓の傾斜がかなりきつくて、遡るのが大変そうだったのですが、この方法しかないと思ったら登るしかありません。これがね。種池山荘から下る時は一瞬でしたけど、雪渓を登ろうとするとものすごい時間がかかるんですよ。雪渓で滑落しないために(渓谷の斜面で2回滑落してビビリはじめました)、一つ一つしっかり足場を作って登るようにしました。

一時間ほど登っても進んだ距離はごくわずか。地図をみたのですが、登山道まではまだまだ距離がありました。この時はすでに17時30分。ここでやっと、「今日帰れないのでは?俺遭難するんじゃない?」と思うようになりました。このタイミングで一度救助を呼ぶか迷いました。しかし、登山道に合流さえできれば、後は登山道に沿って下るだけだし、そんな大事でもないと考えました。なんといっても、救助を呼ぶのは最終手段だという認識を持っていましたね。

その後もひたすら雪の急斜面に足場を作りながら、せっせと登っていました。登山道と雪渓が地図上ではクロスしているので、きっと分かりやすい登山道が目の前に現れるだろうと思い込んでいました。しかし、19時頃までひたすら登っていても登山道らしきコースが見つからず、おかしいなと思いながら地図をみたら、登山道との交差点をとっくに通り過ぎていました。ここでパッと気づきます。登山道がないことに。登山道がないわけではなく、雪に覆われて登山道自体ないもの同然でした。

110番通報から爺ヶ岳(南峰)まで

絶望的でした。雪の急斜面で思ったように身動きもとれず、最終手段の見通しが立たなくなったからです。もう、プライドも何もなくなりました。即座スマホを取り出し、110番をコールしました。優し〜い警察官の方と電話で長く話しましたが、警察の見解としては、

  • 今日は遅くなっているので救助に迎えない
  • 明日の朝一に救助に向かうので、一晩ビバークしてね

でした。

ビバーク用品は何も持ってなかったし、靴が濡れてビショビショ。一晩のビバークは辛すぎます。こんな状況でも冷静さを忘れず、柏原新道がない理由を探していました。「まさか、今年まだ誰もこの柏原新道を通ってないのか」と思って、Yamapで「爺ヶ岳南峰」の活動日記を探してみました。KDDIの電波が通じて助かりました。5月の活動日記を幾つか見てみたのですが、柏原新道を通った記録はありませんでした。まさか、自分が今年の初通過者になろうとしていたとは・・・

しかし、思いもしなかった新しい発見がありました。柏原新道を通った活動日記はなかったですが、爺ヶ岳(南峰)に登った記録のすべてが爺ヶ岳(南峰)南尾根を通っていることが分かりました。しかも、直近は5月19日。5日前でした。その間に雪が降ったこともないし、このコースは使えそう。

だいぶ苦労はしていましたが、この時すでに登山道との交差点を通り過ぎて、種池山荘の稜線近くまで登っちゃっていました。もう少し登っていったら稜線で、そこから爺ヶ岳南峰に登ったら、爺ヶ岳(南峰)南尾根で下りられると思いました。

希望が見えてきました。ビバークはしたくなかった。稜線の近くだったので、傾斜も少しゆるくなってきた。四本足を使ってひたすら登っていたら、20分くらいであっさり稜線にたどり着きました。

その間に警察官は頻繁に電話をかけてきました。状況を知りたいのもあるでしょうが、一人ぼっちにさせない理由もあるように思えました。そこで今のプランを伝えて試すことにしました。

爺ヶ岳(南峰)から扇沢まで

20時30分の爺ヶ岳(南峰)は真っ暗です。この瞬間はとっておきたいと思って、こんな状況でもちゃんと記念写真を撮りました。南尾根コースは正規ルートではないので、Yamapのコースには載っていません。でも、山頂からつながっていてすぐ見つけられました。

山頂から少し下って風のないところで、軽食を取りました。朝コンビニでおにぎりを買う時に、なんとなく余裕を持ちたくて買ったカステラ。そのカステラに助けられました。

尾根コースは、前半は分かりやすかったですが、後半は本当に分かりづらいうえ通りづらく、みんなよく登っているなと思いました。尾根コースを通ってみた感想を一言でいうと、後半通った尾根はそもそもコースではなかったです。ジャングルのど真ん中を通るイメージでした。ほんと通りづらかったです。このようなコースは二度と通りたくありません・・・

後半のコースは柏原新道に合流するのですが、柏原新道は登山口に近い方もまだまだ積雪をトラバースする箇所が多かったです。山頂に近づくと積雪がもっと多いことも容易に想像できます。柏原新道を誰も通ってない理由にも納得です。下山中も警察官から何度も電話がかかってきて、登山道の説明やら気をつけるべき点やら、細かい話してくれました。

そして、夜0時50分無事柏原新道登山口に戻ってきました。20時間を超える超ロング登山になりました。なかなか体験できない、良い経験を積むこともできました。

まとめ

遭難からの自力下山。振り返ってみたら色々と気づきがありました。

  1. 柏原新道は通れるものだと思い込んでいたが、雪山はそうとも限らない。ちゃんと下調べをすべき。
  2. コースから外れたら要注意。特に雪山では思ったように動けないことが多い。
  3. 山で遭難した時は、下るのではなく登る。
  4. 食べ物・飲み物はほんの少し余裕を持つがいい。
  5. 予備バッテリは絶対持とう。
  6. 最終的に頼れるのは自分自身。

その理由

  1. 柏原新道の下調べをしていたら、今回のコースを選ぶことはなかったでしょう。
  2. コースから外れてはまずいという認識を持っていたら、種池山荘から渓谷に向かうこともなかったでしょう。
  3. 遭難に気づいた時点ですぐ山頂に戻ってきたら、少しは苦労が減ったでしょう。
  4. 朝思いつきでついでに買ったカステラ、友人宅でもらってきて冷蔵庫で眠っていたりんごジュース。この二つのアイテムで21時以降を凌ぎました。
  5. いざという時はやっぱりスマホが頼りです。電波がつながらず、予備バッテリがなかったら、多分無理でした。
  6. そして一番大事なことがこれ、いざという時に頼れる存在は自分しかいないこと。ビバークか下山かの決断も最後は自己判断。そしてそれだけの食料でよく20時間も体力が持てたなと思いました。体はやはり日常のメンテがすべてです。

感謝

110番に通報してから下山終了までの間、ずっとお付き合いいただいた大町警察署の担当警察官の方(お名前を覚えていない💦)、大変お世話になりました。

YamapとYouTube

登山軌跡はYamapで記録しています。ぜひ御覧ください。

https://yamap.com/activities/17532236

YouTubeにアップした動画はこちらです。